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BLOG日本先制臨床医学会 第3回学術大会
日本先制臨床医学会 第3回学術大会を振り返って
~統合腫瘍治療研究部会設立~
萬憲彰
医療法人医新会よろずクリニック 院長
ガイドライン最優先で患者さんの価値観や臨床的状況を考えることなく治療方針が決められている
今回の一般社団法人日本先制臨床医学会第3回大会は、神戸医療産業都市であるポートアイランドにて、後藤章暢先生の大会長のもとで行われました。
わが国には、国民皆保険制度という世界にも誇れる素晴らしいシステムがあります。この保険制度は、どなたでもエビデンスレベルの高い水準の医療が低価格(1割~3割負担)で受けられることが特長ですので、基本的にはこの範囲内で治療可能な場合は最優先すべきです。
しかし、国内には難病難民と呼ばれる患者さんが、相当数いることも忘れてはなりません。これは言い換えると、国民皆保険制度では治療不可能な疾患を持つ方々とも言うことができます。
もう1つ、混合診療禁止という法律がありますが、これは同一の医療機関で同一病名に対し自由診療と保険診療を同時に行うと、全額自費診療となるというものです。このため、総合病院や大学病院で治療中の患者さんは、標準治療以外の治療を希望しても自由にそれを受けることができないのです。
また、そこで勤務する医師は、取り扱うことができない治療法やガイドラインに載っていない治療法に関しては無関心であり、その結果『知らない=怪しい』といったイメージを持たれることが多くあります。かく言う自分も、総合病院勤務時代はそのように思っていました。
しかし、一旦海外へ目を向けると実は先進国のほとんどの国で先進医療や伝統医療を組み込んでおり、実際にがんの罹患率や死亡率は軒並み低下してきています。
よくエビデンス(科学的根拠)に基づく医療=EBMと言われますが、これは実は科学的根拠=EBMではないのです。科学的根拠はピラミッド状になっており、保険適応(エビデンスレベル1)だけが科学的根拠があるというわけではありません(図1)。
図1

当学会の特別顧問で初代厚生労働大臣坂口力先生によれば、EBMとは①臨床研究における根拠、②医療者の熟練、専門性、③患者の価値観、④患者の臨床的状況、環境、この4つを加味して決定することをEBMというとされています。
現在の医療機関ではほとんどすべて、ガイドライン最優先で患者さんの価値観や臨床的状況を考えることなく治療方針が決められているのではないでしょうか。
そして、ガイドラインによる治療法の選択肢がなくなると、「もう治療はない」と見放された患者さんは難病難民となるのです。
これらの難病難民を少しでも減らすためには、保険診療外でも有効な治療法を検証し確立していく必要があります(図2)。
図2

「統合腫瘍治療研究部会」を設立し、多くの専門家や医療従事者とともに最大限の効果を発揮する治療法を模索
そこで、われわれは国家資格をもつ人体のスペシャリストとして標準治療外でも有効な治療法、対処法を絶えず模索し、臨床の現場から得られる最大のヒント、n=1(1人の患者)を大切にする医療を学ぶ場としてこの学会を設立しました。
保険診療になるためには、少なくとも10年という期間と500~1000億円以上の予算が必要と言われております。巨大製薬メーカーでも大変なことですが、新治療を開発提供しているベンチャー企業などが、このハードルをクリアするのは非常に困難なことが予想されます。
保険外診療でも有効と思われる治療は多数存在し、それらを発掘していくことで難病難民の救済、新たな希望の提示が可能になると信じています。
当学会では「統合腫瘍治療研究部会」を設立し、多くの専門家や医療従事者とともに最大限の効果を発揮する治療法を模索し、一定のエビデンスを構築していきたいと思います。
この統合腫瘍治療において最も重要な柱は、以下の免疫サイクルにあります(図3)。
図3

よく「がん患者は免疫力が低いからがんになる」と言われますが、決してそうだとは思いません。がんは効率よく生体の免疫機構から逃れており、がんと認識されていないが故に転移・増殖を繰り返しているとも考えられます。その状態で免疫力を強化しても、日々の生活を感染症などにかかることなく過ごせている方は本来の免疫機能は十分であり、培養型の免疫療法などで単純に効果がでるとは思えないのです。
まずは、がん免疫サイクルの①であるがん抗原の放出→樹状細胞への抗原提示が行われなければ、がんを免疫機能が攻撃する可能性は低いのです。ここで抗がん剤はがん抗原を放出するのですが、同時に生体の免疫機構を攻撃してしまうのでこれもまたがん免疫サイクルが回らなくなります。ここが現在の標準治療の限界でもあります。
理想的な治療法とは、生体の免疫機構にダメージを与えない方法でがん抗原を放出すること、その後に生体の免疫機構を活性化(免疫賦活)できればさらに奏効率を上げることができると思います。これを追求していくことが統合腫瘍治療研究部会です。
今回の発表の中で上記に適するものの1つは、鳥取大学獣医外科学教授・岡本芳晴先生がすでに動物の自然発生のがん治療へ応用されている、リポソーム化ICG(図4)を用いた光がん免疫療法です。
図4

これは、がんの新生血管内皮細胞の隙間を利用して100nm付近に高分子化したリポソームにICGを結合させたものの内部に抗がん剤を封入した薬剤を血管内投与し、EPR効果を用いて腫瘍組織へ集積させ、経皮的にIRや近赤外線を照射することで温熱、PDT効果(光線力学的療法)とともに高分子抗がん剤として腫瘍にのみ薬剤をデリバリーするという、前田浩先生の開発されたPTHP(ポリマーピラルビシン)と同様の効果も期待できる画期的治療法です。
現在、ヒトに対してはPDT、温熱効果を用いたリポソーム化ICGは実用化されており、一部の医療機関では観察研究として行われています。
がん治療のためのピラミッド
ちなみに、当院ではESD用のデバイスを改良し内視鏡の先端へレーザーを装着、食道がんへのリポソーム化ICGを用いた光がん治療を実施しています(図5)。
図5

また、治療にはピラミッドがあり「がんには〇〇がいい」といった情報が、どのレベルなのかなどを十分考慮して治療方針を決定していく必要があります(図6)。
図6

当研究部会では、これらの治療を様々な医療従事者と情報交換をすることで最高の治療法を構築し、患者さんへ届けることを最大の目標としています。
多くの皆さまのご参加をお待ちしております。
「日本先制臨床医学会 第3回学術大会」協賛企業・団体一覧
■「日本先制臨床医学会 第3回学術大会」のテーマは「神戸から発する先制医療」であり、2日間にわたって開催された大会では、25名の医師が登壇し研究の成果を発表した。また、学会功労者賞の表彰式が行われ、福沢嘉孝氏、後藤章暢氏、萬憲彰氏が表彰を受けた。
■大会は、以下の協賛団体の協力を得て開催された(大会プログラムより)。
共催企業 | ㈱ツムラ |
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出展研究会 | 環太平洋臨床レーザー医学会 遺伝子治療研究会 日本臍帯プラセンタ学会 日本先進医療臨床研究会 腸内フローラ移植臨床研究会 LMF研究会 日本プロテオ研究会 |
出展企業 | ㈱ヘリックスジャパン ㈱OJIKA Industry ㈱KOSMOS ㈱ホットアルバム炭酸泉タブレット BioQuestOverseas,LLC ㈱グロリア オルネ㈱ 小林製薬㈱ ㈱アジアス California Nutrients,Inc. 第一産業㈱ 朝田ケミカル㈱ 一般財団法人 日本先端医療財団 |
広告 | ㈱福山臨床検査センター ㈱ホットアルバム炭酸泉タブレット ㈱KOSMOS ㈱アジアス ㈱ビー・エム・エル |
賛助企業 | 朝田ケミカル㈱ 一般財団法人腸内フローラ移植臨床研究会 (有) マイテック 一般財団法人 日本先端医療財団 ㈱ホットアルバム炭酸泉タブレット ㈱ヘリックスジャパン ㈱福山臨床検査センター ㈱IMS |
■会場には上記の協賛企業、出展・賛助企業のほかに株式会社スーパーライトウォーター(臼井雅明社長:本社東京都文京区)も特別参加。同社の「DDWATER(重水素減少水)」が参加者全員に配られた。