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BLOG特別寄稿「はざまの医療について」
標準治療とターミナルケアの「はざまの医療」も必要であると確信した
萬 憲彰
よろずクリニック 院長
私事ですが、先日母が空腸がんで亡くなりました。そこで、私が今回感じたことをまとめてみましたので、ご参考にしていただければ幸いです。
母は長年かかりつけの総合病院で慢性C型肝炎の治療を受けていましたので、定期的に(半年に1回)腹部CT検査を受けていました。半年前に、前回のCT検査では見つからなかった肝臓の多発腫瘍を指摘され、肝臓原発というより転移性を疑う所見でした。
上部内視鏡は私が以前行っており異状はなく、今回も下部内視鏡も異状ありませんでした。しかし、ときどきタール便(消化管出血の際に出る便と貧血の進行は認めていた)があったので、小腸の精査(カプセル内視鏡と小腸ファイバー)にて空腸がんと診断されました。
診断先の総合病院では、高齢であることや10万人に1人のまれな疾患ということで標準治療の適応はなく、母も抗がん剤治療などは希望しませんでしたので病院では治療はない状態となりました。
私の家族は、父が外科医で姉は脳神経内科医、義兄は放射線科専門医で母も妻も看護師ですので皆で治療方針を相談した結果、標準治療以外の医療も専門的に扱っている私に治療を一任するという結論となりました。
そして、昨年(2018年)7月から可能な限りの統合腫瘍治療を行いました。すると、一時マーカーもCA19-9が475から1カ月で185に低下し、腹水もがん抑制遺伝子の腹腔内投与などでコントロールすることができましたが、残念ながら次第に病勢を食い止めることができなくなりました。
エビデンスレベル1の標準治療ですら進行がんの奏効率は2、3割で、この度は標準治療すら選択肢にないので難しい経過は仕方ないのですが、今回、母を治療することになり大きな学びがありました。
欧米では当然の代替医療ですが、日本ではまだまだ保険診療外はエセ医学という風潮が根強く、患者さんの希望で当院を受診する際に同門の後輩医師(研修医をおえたばかりくらい)にすら紹介状も貰えないような扱いを受けたり、主治医に遠回しに馬鹿にするような言い方をされたりすることがあり、「自分の行っていることが本当に正しいのか」、「たとえ正しくてもこれを続けることを迷いなくやっていけるのか」、「標準治療だけ行っていれば変わり者扱いされずに済むのになぁ」と悩むこともありました。
しかし、現実として日々難治性の患者さんからの相談は絶えず、母も統合腫瘍治療がなければ緩和ケアまでの間、ただただ悪化していくのを待つだけの時間だったに違いありません。
標準治療での選択肢がなくなってしまったとき、まだまだ戦える患者さんに可能性のある治療法を提示することは希望をあたえることになります。希望は免疫力や自己治癒力を高め、中には実際に完全緩解してしまう方や本来の余命より大幅に伸びる方もおられます。可能性はゼロではないのです。
母は最期まで治療に専念してくれました。そして数週間前から死期が近いことを悟り、会いたい方を呼び、お別れや感謝を伝えたりすることができました。
がんの代替医療で母のがんを緩解させることはできませんでしたが、今改めて自分の仕事は、標準治療と緩和ケアの「はざまを埋める医療」なのだと再認識しました。
標準治療しか認めないという選択肢には希望はありません。もし自分も含め医師やその家族が完治を望めない進行がんになったとき、抗がん剤、放射線治療のみで他の医療や療法は試さないのでしょうか。
医師は常に自分や家族が同じ立場だったらという患者さん目線で相談に耳を傾けるべきであり、標準治療とターミナルケアのはざまの医療も必要であると確信しました。これからも、より患者さん目線で一般開業医としての本分を守りつつ、統合腫瘍治療に専念していこうと決意を新たにしています。